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東京高等裁判所 昭和48年(ラ)678号 決定 1973年11月12日

抗告人 久保田隆夫

右の者に対する静岡地方裁判所昭和四八年(ホ)第一二七号商法違反事件につき、同裁判所が昭和四八年一〇月五日なした決定に対し、抗告人から抗告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。抗告人を過料に処さない」旨の決定を求めるというにあり、その理由は、別紙「抗告の理由」に記載のとおりである。

これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

一、株式会社久保田材木店において、(一)昭和三五年九月五日監査役久保田ふくが退任し、(二)昭和三六年九月五日取締役・代表取締役全員が退任したのに、抗告人は、右会社の代表取締役として、上記(一)(二)の登記事由の発生の日から法定の期間内にしなければならない登記手続を昭和四八年九月二〇日まで怠ったこと、以上の事実は抗告人の自認しているところである。

二、抗告人は、まず、右監査役、代表取締役および取締役は全員(代表取締役久保田松次郎は昭和三七年二月一三日死亡)そのまま再任しているので、変更登記を怠ったものではないというが、再任した場合は登記が不要になるのではなく、その旨の変更登記をすべきであり、再任の場合にその旨の変更登記をしていない以上、商法四九八条一号にいう登記の懈怠があるものというべきである(大審院大正六・六・二二決定・民録二三・九六五)。

つぎに、抗告人は、会社の役員をそのまま留任させているので、任期ごとに登記を更新しなくても何ら第三者に不測の損害を与えた事実はないというが、第三者に不測の損害を与えたかどうかを問わず、変更登記の懈怠の事実があれば過料に処せられるのであるから、抗告人の右主張は失当である。

つぎに、抗告人は、登記を任期満了ごとに改めなければならないとしても、これを長らく放置した法務局および裁判所も責任が問われるべきであるから、本件過料決定は違法であるかもしくは妥当を欠いているというが、抗告人が代表取締役として変更登記を懈怠している以上、過料の制裁が科せられるのであり、このことは法務局や裁判所の措置によって左右されるものではない。

なお、抗告人は、一三年前の登記の懈怠を持ち出して制裁を科するのは法的安定性を害し憲法三一条の精神に反するものであり、過料の処分権は消滅時効にかかっているというが、登記の懈怠による制裁については公訴の時効または刑の時効に相当する規定はなく、また、消滅時効の適用ないし準用の認められないことが明らかである。抗告人の右主張も失当である。

三、そうすると、抗告人の主張する抗告の理由はいずれも失当であり、その他本件過料決定を違法とする理由は見当らない。

よって、抗告人に過料を命じた原決定は正当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 伊藤利夫 裁判官 小山俊彦 山田二郎)

<以下省略>

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